平成26年度 学術講演記念座談会(登竜門チャレンジの思い出 編)

2015-04-10

第33回技修会学術講演会にて講演して頂いた中沢勇太先生(MDLキャステティックアーツ)に特別座談会として様々なお話を伺いました.学術講演会では拝聴できなかったなど,ココだけの情報を大ボリュームでお届けします.

  


 

高山「第33回技修会学術講演会での貴重な講演,誠にありがとうございました.金属床技工を目指す技工士や自分の技工を世にアピールしたいと願う技工士にとって,第7回歯科技工登竜門テクニカルコンテスト(モリタ歯科技工フォーラム2013:スペシャルイベント)にて優秀賞を受賞された中沢先生のお仕事やお考えに興味深々といったところであったかと思います.今回の学術レポート(技修会HP)ではいつもと視点を変え,中沢先生にいろいろ突っ込んだお話を直接お聞きする企画を立てさせて頂きました.どうぞよろしくお願い致します.」

中沢「先日は大変貴重な講演の場を与えて頂きありがとうございました.後半ちょっと急ぎ過ぎてしまい,わかりにくいところもあったと思いますが,とても良い経験になりました.」

高山「座談会前半は,同じ職場でお仕事さことがある原田直彦さん(技工研修科教員)も交えて,雑談も含めたお話を頂ければと思います.」

原田「よろしくお願いします.」

高山「中沢先生と原田さんはどのような職場でご一緒されていたのでしょうか?」

原田「私が千葉県松戸市にある技工所に入社してからの付き合いです.中沢先生は3年先輩になります.私は5年間勤めた後,鶴見大学に就職しましたが,中沢先生は8年間ほど勤務していたと思います.」

高山「金属床義歯専門の歯科技工所だったのでしょうか?」

原田「義歯がメインです.ポーセレン以外の設備はすべて整っていました.中沢さんは,何でもこなしてしまうというイメージです.当時から,東京都技工士会のコンテストでも受賞していましたし,とにかく輝いていました.」

中沢「原田君は僕が3年目を迎えるときに入社してきました.真面目で仕事は丁寧できっちりこなすので,当時はすぐに追い抜かれちゃうなと焦ったりもしました.あれから4年,ずいぶん教員らしくなりましたね.総会後の打ち上げでも学生優先で動く原田君には成長を感じました.原田君が辞める時,丁度東日本大震災が起きてしまい,こちらは大変でしたよ.」

高山「震災の時は千葉も結構揺れて大変だったようですね.」

中沢「あの時はラボが崩壊するんじゃないかってくらい揺れて,仕事もしばらく麻痺してましたよね.今,思い出しても恐ろしい.」

高山「ご無事で何よりです.次に中沢先生には登竜門テクニカルコンテスト応募の動機やその時の様子についてお話頂けますでしょうか?」

中沢「学生の頃,登竜門に出展されていた技工物を見て,いつかこういうものが作りたい,いつか登竜門コンテストに出たいと思ったのがそもそものきっかけでした.4年目あたりから仕事に余裕時間がもてるようになり,コンテストに出品する技工物が作れるようになってきました.仕事に関係ないものを作り始めたのもこの頃からでした.」

高山「技修会の講演で見せて頂いたミニチュアの作品には皆さん驚いてましたね(笑)楽しんでものづくりされていらっしゃるのが伝わってきて,興味深く拝見させて頂きました.」

原田「当時,中沢先生はその日の仕事にメドをつけると,こそこそとパーツづくりしていましたね.」(笑)

高山「いやぁ何と無くわかりますねー.技工の道具や材料があると妙に創造力がかき立てられるというか…」(笑) 

原田「咬合器やミニチュア義歯は,症例のワックスパターンと繋げて,チタンやコバルトクロムで一緒に鋳造していましたね.臨床とどっちらがメインかわからないぐらい楽しんでました.」

 一同:(笑)

中沢「自分の実力がどの程度ついたのか,何か形として残したい,そう思い始めました.ついに登竜門へ挑戦しようということになったのですが,応募要項の『モリタ社製の材料を使う』のを見てびっくりしました.使用材料でのハードルがあったのです.」

高山「コンテストには主催企業の特定材料を使用しなければならないという規定があったのですね.」

中沢「最初はとりあえず金属床義歯の臨床例でプレゼンを作り応募しましたが,最終選考落選してしまいました.」

高山「そうでしたか…残念でしたね.」

中沢「その年は優秀賞該当者なしと,登竜門の高さを改めて認識しました.昔から負けず嫌いの僕はどうしても悔しくて,もう一度だけと思い再トライしました.やはり義歯だけではインパクトが足りないのかと思い,試行錯誤の末,エステニアをクラスプに築盛するハートクラスプを生み出しプレゼンに臨むことにしました.臨床の結果も良かったことから,上手くプレゼンがまとまり,登竜門優秀賞を頂くことができました.」

高山「そのハートクラスプについて伺ってよろしいでしょうか?」

中沢「実際に患者さんにお見せしたとき,ハート型でかわいいというコメントを頂いたことでハートクラスプって呼ぶことにしたんです.」

高山「弾力性を期待するクラスプにハイブリッドセラミックの前装となると剥離が心配になりますが?」

中沢「そうなんです.実際には臨床に応用するまでにサンプル模型を作り,試作品で15000手動で着脱して剥離テストを行いました.」

高山「それは凄いですね.」(驚)

中沢「剥離しにくい設計としてIバーの稼働領域を補強して限定したり,アンダーカット接触領域を調整したりと試行錯誤した甲斐もあり今のところ剥離はしていないそうです.」

高山「技工に対する中沢先生の熱い情熱がハートクラスプの独創性を開き,登竜門コンテストの結果に繋がったのですね.」

中沢「ハートクラスプが実際に受賞の決め手になったのかどうかはわからないですが.」(笑)

高山「受賞後は環境の変化などはありましたか?」

中沢「登竜門挑戦によって,今までやってきた仕事を一つずつ丁寧に振り返ることができ,よりきめ細やかな仕事ができるようになったのではないかと思います.また写真の撮り方やプレゼンの作り方も勉強する機会となり,普段ではできない経験をさせて頂きました.」

高山「講演をする機会も増えたのではないかと思いますが,今迄で思い出深い経験はありましたか?」

中沢「やはり最初のモリタの技工フォーラムでの発表が思い出深いです.というのも登竜門優秀賞を取ると,セットでついてくるのがこの技工フォーラムでの受賞者発表です.僕の場合はエステニアをクラスプに盛るという行為が,まだ臨床的にグレーなのではないかということで,プレゼンを最初から作り直すことになりました.モリタ社での発表の練習会では直前までダメだしの嵐で,スタッフの方には大変迷惑をおかけしてしまいました.予定よりも多くの練習会を設けて頂き,夜遅くまで練習を見守ってくれました.」

高山「そんな綿密なプレゼンのリハーサルがあったとは驚きですね.」

中沢「今でもあの日々は色濃く記憶に残っています.それだけに技工フォーラムで発表が終わった時は涙がでそうなくらい嬉しかったです.」

高山「自らの作品を世に送り出し評価を受けるという事はこういうことなのですね.」

中沢「その後も各方面から講演をさせて頂く機会を何度か頂き,自分の発表を色々な方に聞いて頂くことができて,とても嬉しく思っています.その反面,仕事以外にやることが増えてしまい大変なこともある訳ですが,それでも充実した日々を送っています.」

高山「本当にお忙しいところ恐縮です(汗)何だか登竜門コンテストの話題ばかりになってしまい申し訳ないです.さて,中編と後編は準会員からの質問」も含めてお話を伺って参りたいと思います.」

(続く)

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